あの日夢見た景色をなぞって 僕の時間とこの世界をトレード
大学時代の友人の結婚式だった。僕たちは1年生のときにたまたま同じゼミでグループワークを一緒にやった5人で、それ以降に特に同じゼミとかにはならなかったし、サークルとかも別々だったし、そもそも趣味も性格もバラバラなので特に群れることはなかったけど、なんだかんだ大学でちょくちょく会ってはいたし、卒業後も何度か会っていた。ここ数年はそれぞれ忙しくなったり結婚したり出産したりで全然会っていなかったし、今回の結婚式にも一人は仕事で来れなかった。
他の出席者は友人の勤める会社の先輩後輩や、スポーツサークルの仲間などで、そんな中で当然僕たちは明らかに浮いていたのだけれど、それでも呼んでくれた友人には本当に感謝しかないし、友人の交友関係の特異点とも言うべき人間になれたことを、とても光栄に思っている。
当然本人は忙しいのであまりゆっくりは話せなかったが、また5人で集まれたら良いねみたいなことを話した。みんな本心からそう思っていたが、きっとそういう日は来ないであろうことは、みんなわかっていたとおもう。ああ、僕らもうずっと変わらない友情を持つ関係になってしまったね。これから先ずっと停滞したまま、たまに連絡を取り合うくらいの関係に。
最近何してるの?そっか、大変だね。昔はああだったよね。みたいな感じでどこか噛み合わない思い出話をするんだ。
ちょうど結婚式と同じ日に高校の同窓会をやっていて、同窓会は欠席にした。でももし結婚式じゃなくても同窓会は嫌いなので行かなかったと思う。 変に伝統校と呼ばれるような高校だったから、同窓会でも校歌を歌うし、応援歌を肩を組んで歌う。その時だけみんな高校生の頃に戻るとでも言うのだろうか。もう絶対に戻れないのに。みんなそんなに良かったのか、あの日々が。伝統とかいうよくわからないものに潰された人間を何人か見てきた僕には、とてもそんな良いものは思えなかったよ。だからといって悪い思い出ばかりだったわけではきっと無いのだけれど。同窓会のLINEに校歌と応援歌の動画が貼られていて、昔の担任がうちのクラスは参加人数が少なくて残念だったが~みたいなことを言っていた。でも先生、僕は高3の時クラスの先生との思い出、何一つ思い出せないんです。ごめんなさい。先生と僕は何を話しましたっけ。憶えていますか。
既読だけ付けて特に返事をする気もない同窓会のLINEを眺めながら、結婚式の2次会を終えて、もうすぐ永遠になる友達と、東京の夜は静かだという話をしていた。 そう東京の夜は静かなんだ。いや、きっとそれも言い過ぎで、東京にもそうじゃないところもあるんだろうけど、僕たちの話す文脈での東京の夜は静かだったという話だ。東京の夜は人の音しかしない。あの夏の夜の蛙の風情のなさや、虫の雑音が東京の夜には無いんだ。夜道を歩いていても、歩道が雑草で覆われていることもない、管理された自然ばかりだ。
僕はそんな静かな街に帰るし、君はあのうるさい街に帰るんだ。きっと帰ってから、電気を消してベランダにでて、そこまで冷えてもいない缶チューハイの甘ったるさを感じながら、ここからは星がよく視えないってLINEを送るよ。またいつかどこかで会えると良いね。